喰らいつく狼の群れ

本を読んで考えたことを書きます

グールドのブラームス

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

大学に入ったばかりの、三月、四月くらいに、正確にいえば、三月はまだ大学には入っていないから、京都で一人暮らしをはじめたころに(ところで京都で一人暮らしをはじめたのが三月の何日で、その日にどんな出来事があったかほとんど記憶にない、家賃三万五千円のアパートから歩いて二分くらいのところにある生活用品店で、お店の名前ももう忘れてしまった、ティッシュやトイレットペーパーやこれから生活を始めるにあたって最低限必要になるものと一緒に、おそるおそるグレープ味かカルピス味のほろよいを買って、アパートで一人で飲んでなんだか拍子抜けしたことはおぼえている)、私はグールドのブラームスをよく聴いていた。

渋谷のタワーレコードのクラシック音楽のフロアで、「無人島に一枚だけ持っていくなら」のような企画をやっていて、たしか坂本龍一がグールドのブラームスを選んでいた。なぜ坂本龍一がグールドのブラームスを無人島に持っていくのか、細かい理由は記憶していないが、とにかくそれで買った。結局京都は無人島ではなかったし、別に当時も無人島に行く覚悟で買ったわけではないけれど、それはともかく、音楽と音楽を聴いていた時間というのはつながりをもっていて、久しぶりに聴いてみるとそのときのことがこうしてなんとなく思い起こされるので、これは私にとって良い音楽であると自信をもって私に言うことができる。

 

open.spotify.com