喰らいつく狼の群れ

本を読んで考えたことを書きます

物語は続く―sora tob sakana「信号」と「untie」

どんなことにも終わりはある。終わり方はいろいろで、終わりを自ら選ぶこともできれば、なにかの拍子に突然終わってしまうこともある。

 

<寺口夏花>
sora tob sakanaを応援してくださっている皆さんへ

 

この度私達sora tob sakanaは解散することになりました。
中学生を卒業する頃から、20歳になったら将来のことをもう1度考え直そうと考えていました。
そして20歳になる今、改めて今の生活を見つめ直してみました。

 

楽しかったことももちろんありますが、そうでないこともたくさんありました。
最近は今まで楽しいと思えていたことを辛いと思うこと、自分は人前に出るのが向いてないなと思うことがだんだん増えてきたように感じます。

 

皆で将来を考えて、この決断をしました。
6年間で学んだこと楽しかったこと、この先もきっと忘れないと思います。

 

もし良かったら、最後まで応援よろしくお願いします。*1

 

2020年5月にsora tob sakanaは解散を発表した。まだまだ続けることはできた(と思う)。寺口夏花は、神崎風花と山崎愛は、アイドルを続けることを受け入れなかった。sora tob sakanaの「夜間飛行」という曲には、

あの日私が受け入れなかった話の

結末は誰のためにあるんだろう

という一節があって、この曲を聴くといつもここで考えてしまうのだけれど、選ばれなかった物語や届かなかった言葉は一体どうなってしまうんだろう。

 

解散が決まってから、「信号」と「untie」の2曲が新たに書き下ろされた。sora tob sakanaの楽曲はデビューから一貫して、音楽プロデューサーの照井順政が作詞・作曲を手掛けていて、最後の楽曲も彼の手によるものだ。

 

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「信号」を聴いたあとに、初期の楽曲を聴き返してみると、アイドルとして活動した6年の歳月を経て、10代の少女たちがこんなにも変わったことに驚く。

MVのラストの、彼女たちが光から手を離すカットは、アイドルであることから、きらめくステージに立つことから降りるようで、象徴的だ。最後に放った光は誰に届くのだろう。

 

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それから、もう一曲の「untie」だ。私はラストアルバムのリリースが発表されてからしばらくの間、「unite」だと勘違いしていた。解散しても絆は永遠、サンキューマイメンフォーエバー、のような曲だと想像していた。照井順政はそんなヌルい男ではなかった。

2020年8月に発売された「信号」と「untie」を含むラストアルバム「deep blue」には、9曲の再録された既存の曲を挟んで、はじめに「信号」が、おわりに「untie」が収録されている。

「untie」のひとつ前の曲は「ribbon」という曲で*2

この列車に乗ったなら きっと

もうこの場所には戻れない

柔らかいベッドじゃ見られない夢

「今じゃなければ」なんて 馬鹿みたいでしょ?

の「列車」はアイドルであることと解釈できる。実際、この曲は彼女たち自身がモチーフになっているようで、照井順政は「deep blue」のブックレットで「ribbon」についてこう語っている。

自分が夢を追うか、このまま友達とかと過ごすかみたいな選択があるなかで、夢を諦めないで夢を追うことを選ぶ、みたいな。で、そっちを選ぶんだったら安定した楽しい暮らしっていうのはしばらく望めなくなるっていう覚悟を持って行くんだけど、そのときに、なんとなく過ごしてた毎日の大切さにも逆に気付いてしまうみたいな感じで。"それでも行くんだ"っていう感じの歌詞ですね。それはもちろん彼女たちのアイドル道にも重ねていて。

 

曲順からしても、「untie」の(結び目を)解く・ほどくという意味からしても、「untie」がアイドルであることからの解放を表していることは明白だ。

ところが、「untie」ではこれといって中身のあることは歌われない。波や星の形のこととか、髪が風に揺れてるとか、虫の声がするとか、ぼんやりした言葉が重なっていく。彼女たちの歌も曲の半分くらいで終わってしまって、残りの半分は静かにインストだけが流れる。ただ、歌詞の終わりは、強い確かな言葉で締めくくられる。

星が降るようだ

星が降るように

君が生きている

 

アイドルという物語が終わっても、人生という物語は続く。彼女たちの放った光が、彼女たち自身の未来をいつまでも明るく照らしてほしい。

*1:https://soratobsakana.tokyo/news/index02100000.html

*2:「ribbon」のひとつ前の曲が「夜間飛行」