喰らいつく狼の群れ

本を読んで考えたことを書きます

夏の終わりの光―「ポルトガル、夏の終わり」

人生はほとんど思い通りに進まないというのは言うまでもないことで、過去は取り返しがつかないし、未来も自由に選べるわけではない。

 

ポルトガル、夏の終わり』の主人公は、女優としてかなりの成功を築いたが、末期ガンで先はそれほど長くない。人生の最期を前に、家族や友人を自分のもとに呼び寄せて、お節介パワーを発動する。これが全然上手くいかない。

娘夫婦は離婚しそうだし、孫はいじけてビーチで遊んでるし、息子の結婚相手にと呼び寄せた友人はボーイフレンドを連れてくるし、形見の腕輪も森の奥にぶん投げられる。無情だ。でも、それぞれにそれぞれの人生が(上手くいってないなりに)あるわけで、もうすぐ死ぬからといって何もかも主人公の思い通りになるわけではない。

最後に、ヤケクソなのかなんなのか趣旨がよく分からないんだけど、全員で山に登る。主人公は病気なのになぜか一番先に頂上に着いてて、あとから他のみんなが登るのを凄味をきかせて眺めている。旦那と友人が仲良さそうに話してたり、孫がつまらなさそうに下向いて歩いてたり、様子はいろいろなんだけど、結局自分が死んでも彼らの人生は続く。そういう当たり前のことを、彼女は受け入れたのだと思う。

頂上に全員が着いたところで、映画は終わる。互いに抱擁することも、パーティを始めることもない。親戚のババアに呼ばれて山に登ったけどなんだったんだろう、と内心毒づいてるかもしれない。そのうち忘れ去られるだろう。ただ、それぞれの人生が続いていくという単純な事実が、光を放って見える。沈む夕日がきれいだ。 

 

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